不動産を相続した場合、複雑な手続きや確認すべきことも多いため、スムーズに進めるためにも基本的な流れや方法について把握することをおすすめします。
本記事では、不動産を相続してからの流れや方法、かかる費用について解説していますので、相続時の負担を減らすためにも参考にしてください。
- 不動産を相続した際の流れ
- 不動産を相続する方法
- 不動産を相続する際にかかる費用
不動産を相続した際の流れ
不動産を相続した際の流れは、以下の5つです。
- 遺言書を確認する
- 相続人を確定する
- 相続人全員で遺産分割協議を行う
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 相続税の申告と納付
全体の流れを把握しておけば、不動産をスムーズに相続できます。
遺言書を確認する
不動産を相続したら、まずは遺言書を確認しましょう。
原則として、被相続人が遺言書を残しているのであれば、遺言書の内容通りに相続を進めなければなりません。
遺言書がない場合は、後ほど紹介する「遺産分割協議」を行って、遺産の分割方法を決めます。
遺産分割協議を行った後に遺言書が見つかった場合は、遺言書の内容が優先されるので、無駄な手続きを進めないためにも、初めに遺言書の有無を確認しておきましょう。
また遺言書には、被相続人が直筆した「自筆証書遺言」、公証人が書いた「公正証書遺言」、被相続人が直筆した遺言書の内容を秘密にしたまま公証役場で保管しておく「秘密証書遺言」の3種類があります。
遺言書が「公正証書遺言」以外の場合は、勝手に開封すると罰金が科されることもあるので、必ず家庭裁判所で検認手続きを行ってください。
相続人を確定する
遺言書の確認が済んだら、不動産を相続する相続人を確定させます。
誰が相続人なのか特定するには、被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本を取得して調べる必要があります。
遺産分割協議後に新たな相続人が発覚した場合は、再度遺産分割協議を行わないとならないため、事前に相続人は把握しておきましょう。
相続人全員で遺産分割協議を行う
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議とは、相続人同士で遺産の分配方法を決める話し合いのことです。
話し合いがまとまれば遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名して実印を押します。
遺産分割協議を行っても話がまとまらない場合は、家庭裁判所にて遺産分割調停に進みます。
それでも成立しない場合は遺産分割審判に移行し、裁判所が遺産の分割方法を決める手続きが必要です。
不動産の名義変更(相続登記)
不動産を相続する人が決まったら、被相続人から相続人に名義変更(相続登記)を行います。
名義変更の手続きは相続登記とも呼ばれ、相続する不動産を管轄する法務局で申請手続きを進めます。
これまで相続登記は任意であり、期限の定めもなかったため、登記申請せずに放置している方もおられました。
しかし、相続登記は2024年4月1日から義務化されることが決定し、相続が開始されてから3年を過ぎると過料が科されるリスクがあるため、早めに手続きを済ませておきましょう。
相続税の申告と納付
相続を開始した日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告と納付を行います。
申し込み期限を過ぎると、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課される可能性があるため注意が必要です。
ただし、相続税の申告と納付は、相続税の計算時に使用される「基礎控除」を超えた場合のみ発生します。
基礎控除とは、被相続人が残した財産から一定額を差し引くことで、相続税の支払いを減少できる控除のことです。
基礎控除額の計算式は、以下のとおりです。
基礎控除=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
たとえば、法定相続人が配偶者1人と子供2人の場合、「3,000万円+(600万円×3)=4,800万円」となり、被相続人の相続財産の総額が4,800万円以下であれば相続税の申告も納付も必要ありません。
ただし、基礎控除を差し引いても財産が超える場合は、ペナルティを避けるためにも期限内に申告と納付を行いましょう。
不動産を相続する4つの方法
不動産を相続する4つの方法は、以下のとおりです。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有名義
不動産は現金のように平等に分割するのが難しいため、相続人同士でよく話し合い、最適な分割方法を選ぶようにしましょう。
現物分割
現物分割は、不動産などの財産をそのままの形を維持したまま相続する方法です。
たとえば、建物は配偶者、土地は長男、預貯金は次男と、財産の形を変えることなく相続人に引き継ぎます。
シンプルで手続きも簡単ですが、相続される財産によっては不平等が生じやすく、話し合いがまとまらない可能性があります。
また、土地を同じ面積で分筆(複数の土地に分割)した場合でも、日当たりや形状などで不満の声が上がるケースもあるため、完全に平等に分割するのは困難です。
そのままの形で相続できる現物分割は、4つの分割方法の中でも手間がかかりにくいと言えますが、平等に分けるのが難しい方法です。
代償分割
相続人の1人が単独で不動産を取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う方法を代償分割と言います。
たとえば、被相続人の長男と次男で時価3,000万円の不動産を相続する場合、どちらか1人が不動産をそのまま相続し、相続した人が半額の1,500万円の代償金をもう1人に支払う方法などが代償分割に該当します。
正当な時価を参考に代償金を計算するため、スムーズに話がまとまる傾向にあります。
ただし、不動産を相続した人の財産から代償金を捻出する必要があるため、資金に余裕がなければ難しい方法です。
換価分割
換価分割とは、不動産を売却して得た現金を相続人同士で分割する方法です。
たとえば、不動産の売却額が2,000万円で被相続人の長男と次男が相続人の場合、それぞれ均等に1,000万円ずつ分割できるので、不動産を公平に分けられる方法と言えます。
ただし、不動産が希望の金額で売れるとは限らず、古くて条件の悪い物件であれば売却自体が難しい可能性もあります。
共有名義
共有名義は、複数の相続人が共有で不動産を相続する方法です。
実際に不動産を分割して相続することは不可能なため、「持分割合」と呼ばれる方法でそれぞれの相続人が不動産を所有します。
注意点として、将来売却する際は共有名義人全員の同意を得る必要があります。
連絡が取れない人がいたり、連絡が取れても売却に反対されたりする場合があり、売却がスムーズに進まない可能性もあるでしょう。
デメリットも多い方法のため、共有名義で相続する場合は慎重に検討するようにしてください。
不動産を相続する際にかかる費用
不動産を相続する際にかかる費用は、主に以下のとおりです。
- 相続税
- 登録免許税
- 必要書類の取得費用
事前にどのような費用がかかるのか把握しておき、相続した際の参考にしましょう。
相続税
相続税は、被相続人から不動産などの財産を相続した際に、その財産に対してかかる税金のことです。
「相続税の申告と納付」でも解説したとおり、不動産を含む預貯金や株券、自動車などの相続財産の総額が基礎控除を上回っている場合、相続税の支払いが発生します。
また、相続税の支払いを抑える方法は、基礎控除以外にも以下のような対策があります。
- 配偶者が相続した場合の減額
- 「小規模宅地等の特例」で評価額を80%減額する
- 未成年者控除・障がい者控除
参考:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
参考:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
参考:国税庁「No.4164 未成年者の税額控除」「No.4167 障害者の税額控除」
配偶者が相続により取得した財産が、「1億6,000万円以下」または「法定相続分(配偶者のみであれば財産の100%)」までであれば、非課税にできます。
どちらか比較して、大きい金額に適用されます。
土地を相続した際に活用できるのが「小規模宅地等の特例」です。
被相続人が相続開始までに住んでいたり、事業を行っていたりした土地を相続する場合に、一定の条件を満たせば限度面積内の土地の相続税を最大80%軽減させられます。
相続人が未成年や障がい者の場合は、発生した相続税の一部を差し引ける税額控除もあります。
18歳未満であれば「18歳になるまでの年数×10万円」、一般障がい者であれば「85歳になるまでの年数×10万円」の控除が可能です。
登録免許税
不動産の相続登記を行う際は、登録免許税がかかります。
登録免許税額は「固定資産税評価額×0.4」で求められます。
固定資産税評価額が知りたい場合は、市区町村から送付される納税通知書の「課税明細書」や、「固定資産税評価証明書」で確認可能です。
なお、固定資産税評価額は土地と建物それぞれに定められているので、土地・建物の両方に登録免許税がかかる点に注意しましょう。
必要書類の取得費用
不動産の相続は、税金だけでなく相続登記するために必要な書類の発行に対しても費用がかかります。
相続登記する際に必要な書類と費用は、以下のとおりです。
必要書類 | 費用 |
被相続人と各相続人の戸籍謄本 | 1通あたり450円 |
新たな名義人の住民票 | 1通あたり200円〜300円程度 |
被相続人の住民票の除籍、または戸籍の附票 | 1通あたり300円程度 |
遺言書、もしくは遺産分割協議書 | 基本的に費用はかからない |
各相続人の印鑑証明書 | 1通あたり300円程度 |
不動産の固定資産評価証明書 | 1通あたり300円程度 |
遺言書、もしくは遺産分割協議書以外の書類は、市区町村役場で入手可能です。
ただし、固定資産評価証明書は不動産を管轄している市区町村役場でしか手に入らない点に注意しましょう。
集める書類も多く、郵送してもらう際は時間がかかる場合もあるので、相続が開始されたらなるべく早めに準備しておきましょう。
まとめ
不動産相続は、相続人を調べて確定したり、遺言書がなければ相続人全員で遺産分割協議を行なったりと、時間や手間がかかります。
また、名義変更(相続登記)は、2024年4月1日から義務化されることが決定し、相続登記を行わずに放置しておくと過料が科されるリスクがあるため、早めに手続きを進めておくことが大切です。
慌てて準備することを防ぐためにも、不動産相続時の流れや方法を把握して、スムーズな手続きを行いましょう。